要点まとめ
  • 「ペプチドは合法か」という問いに単一の答えはありません。同じ分子でも、承認医薬品、調剤原料、研究用試薬、食品成分、化粧品成分のどれとして流通するかで適用法令が変わります。
  • セマグルチド、チルゼパチド、テサモレリンなどは規制当局に承認された処方医薬品です。処方なしに入手・使用することは、物質そのものの合法性とは別の問題として規制対象になります。
  • BPC-157、TB-500、GHK-Cu(注射剤)などは、日米欧のいずれでもヒト用医薬品として承認されていません。「研究用」表示は製造者側の販売条件であり、購入者に治療目的の使用を認める許可ではありません。
  • 米国では2026年7月23日から24日にFDAの薬剤調製助言委員会(PCAC)がBPC-157、KPV、TB-500、MOTS-c、エピタロン、セマックス、エミデルチドの503A原薬リスト収載を審議しました。委員会の勧告はFDAの最終決定ではありません。
  • EUとフランスでは「機能による医薬品」の定義が広く、薬理学的作用を持つ物質は表示の有無に関係なく医薬品と判断され得ます。日本では薬機法により、個人輸入した未承認医薬品の他者への販売・譲渡は認められていません。
  • 競技者にとっては法規制とは別にWADA禁止表が適用されます。S2はペプチドホルモン・成長因子・関連物質および模倣物質、S0は非承認物質を常時禁止としており、2026年版は2026年1月1日発効です。
  • 本記事は教育目的の情報提供であり、医学的助言でも法的助言でもありません。法令は国と時期によって変わるため、実際の判断は医療専門家および各法域の資格を有する法律専門家に確認してください。

ペプチドは合法なのか:まず何を区別すべきか?

「ペプチドは合法か」という質問は、実務上そのままでは答えられません。理由は単純です。ペプチドとはアミノ酸が数個から数十個つながった分子の総称にすぎず、法律は分子の化学構造ではなく製品としての位置づけを規制しているからです。同じアミノ酸配列であっても、医薬品として承認されているのか、薬局の調製原料として扱われるのか、研究用試薬として売られているのか、食品や化粧品の成分として配合されているのかで、適用される法令と違反の内容がまったく異なります。

この記事では、ペプチド製品を法的に意味のある4つの区分に分けて整理します。第一に、規制当局の承認を受けた処方医薬品(セマグルチド、チルゼパチド、テサモレリンなど)。第二に、「研究用にのみ使用、ヒトへの使用は不可」と表示して販売される研究用試薬(BPC-157、TB-500、エピタロンなど)。第三に、食品・サプリメントとして流通するペプチド(コラーゲンペプチド、乳由来ペプチドなど)。第四に、化粧品成分としてのペプチド(GHK-Cu の外用配合、アルジルリン、マトリキシルなど)。この4区分は国をまたいで共通して使える整理軸です。

もう一つ重要な軸が、行為の種類です。法令は一般に「所持」よりも「供給」を厳しく規制します。未承認医薬品を自分のために少量所持することと、それを他人に販売したり、治療効果を宣伝して広告したりすることは、同じ物質を扱っていても法的な重さが大きく違います。後者は日米欧のいずれでも明確な違反類型として扱われます。

最後に、時間軸も無視できません。ペプチドの規制環境は2024年以降きわめて流動的です。米国ではGLP-1系薬剤の供給不足解消に伴う調製規制の見直しがあり、2026年にはFDAの助言委員会が複数のペプチドについて調製用原薬リスト収載を審議しました。以下の記述はすべて2026年9月30日時点で確認できた公的情報に基づくものであり、読まれる時点では状況が変わっている可能性があります。

免責事項:本記事は教育目的の情報提供です。医学的助言でも法的助言でもありません。個別の状況については、医療専門家および居住国の資格を有する法律専門家にご相談ください。

処方薬として承認されているペプチドはどれか?

ペプチド医薬品には、規制当局の審査を通過して市販承認を得たものが多数あります。インスリンは1世紀近く前から使われているペプチド医薬品であり、近年最も注目されているのはGLP-1受容体作動薬です。セマグルチドは2型糖尿病治療薬として承認され、その後より高用量の製剤が肥満症を対象に承認されました。日本では肥満症を対象とするセマグルチド製剤(ウゴービ)が2023年3月に製造販売承認を取得しています。チルゼパチドはGIP/GLP-1の二重作動薬として、糖尿病および体重管理の領域で承認されています。

成長ホルモン軸に作用するペプチドでは、テサモレリン(EGRIFTA)が例として明確です。これは成長ホルモン放出因子(GHRF)の類似体で、米国FDAは2010年11月にHIV感染成人のリポジストロフィーにおける過剰な腹部脂肪の減少を適応として承認しました。添付文書には、長期的な心血管安全性は確立されておらず、体重減少の管理を目的とした適応ではないことが明記されています。ここが重要な点です。承認されたペプチドであっても、承認された適応、用量、患者集団の範囲内でのみ有効性と安全性が評価されているということです。

承認医薬品であることは「自由に買える」という意味ではありません。むしろ逆です。処方箋医薬品に分類されるため、医師の処方と薬剤師の調剤という経路を通らない入手は、多くの法域で規制の対象になります。処方なしにオンラインでセマグルチドやチルゼパチドの原薬を購入する行為は、「物質が承認されているかどうか」ではなく「処方箋医薬品の無資格供給・無許可輸入」という枠組みで問題になります。

なお、承認ペプチドと未承認ペプチドの境界は品目単位で判断する必要があります。ある国で承認されている製剤が別の国では未承認であることは珍しくありません。逆に、同じ有効成分でも、承認された製剤(規格、純度、無菌性、安定性が審査済み)と、研究用試薬として売られている粉末とでは、品質保証の水準が比較になりません。品質証明書の読み方についてはペプチドのCoA(分析証明書)の読み方で詳しく扱っています。

「研究用・ヒト使用不可」表示の製品はどう位置づけられるのか?

オンラインで販売されているペプチドの多くには、「研究用にのみ使用(For Research Use Only)」「ヒトへの使用は不可」「体外試験専用」といった表示が付いています。この文言の法的意味を誤解している購入者が非常に多いため、ここは丁寧に整理する価値があります。

この表示は、販売者が自らの販売行為を規制の枠外に置こうとする条件表示です。購入者に対して治療目的の使用を許可するものではなく、また当局が「研究目的なら自由に使ってよい」と認めた証明でもありません。医薬品規制の基本構造では、ヒトへの投与を意図した製品は、その意図が表示、広告、販売者の説明、販売の文脈のいずれから読み取れる場合に医薬品として扱われます。「研究用」とラベルに書いてあっても、販売ページで投与量、投与経路、期待される身体的効果が説明されていれば、規制当局はその実質を見ます。

また、研究用試薬には医薬品としての品質要件が適用されません。つまり、無菌性、エンドトキシン量、不純物プロファイル、含量均一性、安定性について、医薬品と同等の規制上の保証がありません。FDAが調製用原薬としてのペプチドについて免疫原性と不純物を主要な懸念として挙げてきたのは、この品質保証の欠如と直接関係しています。ペプチド合成では、切断された配列、エピマー、脱アミド体、残留溶媒、残留保護基などが混入し得ますが、研究用グレードではこれらの管理水準が製品ごとに大きく異なります。

実務上の帰結は次のとおりです。第一に、「研究用」表示の製品を購入して自分に投与する行為は、多くの法域で少なくとも承認医薬品制度の外側にあります。第二に、健康被害が生じた場合、医薬品の副作用救済制度や製造販売業者の責任を前提とした枠組みが働かない可能性があります。第三に、購入者が第三者に転売・譲渡すれば、それは明確に未承認医薬品の供給行為となります。安全性側面の詳細はペプチドの安全性に関する解説を、供給元の評価軸については供給元の見極め方の解説を参照してください。

米国では調剤用ペプチドがどう扱われているのか?

米国の議論の中心にあるのが、連邦食品医薬品化粧品法(FD&C Act)第503A条および第503B条に基づく調製(コンパウンディング)の枠組みです。503Aは州免許を持つ薬局や医師による患者個別の調製、503Bは登録された外部委託施設(outsourcing facility)による調製を対象とします。承認医薬品ではない原薬(bulk drug substance)から調製できるのは、原則として、その原薬がUSPなどの適用モノグラフを持つか、FDAが作成する503A原薬リストに収載されている場合です。

FDAは、リスト収載の審査が完了するまでの間の運用として暫定方針を設け、指名された原薬を複数のカテゴリーに分類してきました。カテゴリー1は評価に足る情報があり、審査中は一定の条件下で調製に用いても措置を取らない意向が示された物質、カテゴリー2はFDAが調製における重大な安全性上の懸念を特定した物質、カテゴリー3は評価に必要な情報が不足している物質です。BPC-157は免疫原性と不純物への懸念を理由に2023年にカテゴリー2へ分類され、これが米国での「BPC-157は合法か」という議論の起点になりました。

2026年に入り、この構図が動きました。報道によれば2026年4月、指名の取り下げを理由に12のペプチド(BPC-157、TB-500、KPV、MOTS-c、エピタロン、セマックス、エミデルチド(DSIP)、GHK-Cu の注射剤形、LL-37、DiHexa、PEG-MGF、メラノタンIIなど)がカテゴリー2から外されました。ただしカテゴリー2からの除外は承認を意味しません。そのうえでFDAは薬剤調製助言委員会(PCAC)の会議を2026年7月23日と24日に開催し、BPC-157、KPV、TB-500、MOTS-c、エミデルチド、エピタロン、セマックス(いずれも遊離塩基および酢酸塩)について503A原薬リストへの収載を審議しました。報道によれば、委員会は7物質のうち6物質の収載を賛否の近い票差で勧告し、エミデルチドについては否決しています。

ここで法的に決定的なのは、PCACの勧告はFDAの最終決定ではないという点です。原薬リストへの収載は規則制定手続を経て確定します。2026年9月30日時点で、これらのペプチドが最終的な503A原薬リストに収載されたという公表は確認できません。したがって現時点では、米国の503A薬局がこれらのペプチドをヒト用に合法的に調製できる状態にあるとは言えません。BPC-157のモノグラフでも、この物質が承認医薬品ではないことを前提に研究データを整理しています。

GLP-1系については別の経路で整理が進みました。FDAはチルゼパチドおよびセマグルチドの注射剤の供給不足解消を宣言し、調製業者に対する経過措置期間を示した上で、市販製品の実質的なコピーにあたる調製に対して措置を取り得る立場を明確にしました。さらにFDAは、セマグルチド、チルゼパチド、リラグルチドを503B原薬リストから除外する提案を行い、外部委託施設がこれらを原薬から調製する臨床上の必要性は認められないとしています。

購入、所持、販売で法的リスクはどう変わるのか?

多くの読者が本当に知りたいのはこの点です。「買ったら犯罪になるのか」「持っているだけなら問題ないのか」。一般論として、麻薬・向精神薬などの規制物質に該当しないペプチドについては、法令の主たる規制対象は供給側の行為です。つまり、製造、輸入、販売、広告、表示です。個人が自己使用の目的で少量を所持することは、多くの法域で独立した刑事犯罪として規定されていません。

ただし、これは「安全」を意味しません。リスクは次の順に高くなります。

  • 所持(自己使用目的):規制物質でなければ、個別の処罰規定がない法域が多い。ただし輸入時点で税関の確認や差止めの対象になり得る。
  • 輸入:ここから明確に規制が働く。多くの国が、医薬品の個人輸入について数量制限、処方箋の提示、当局の事前確認などを要件としている。
  • 販売・譲渡:未承認医薬品の供給は、日米欧のいずれでも明確な違反類型。無償の譲渡でも違反となる法域がある。
  • 広告・効能表示:未承認医薬品について疾病の治療・予防効果を示す表示や広告は、単独で違反を構成する。FDAが警告書を発出する典型的な理由でもある。
  • 医療専門職による投与:刑事責任とは別に、行政処分、免許上の問題、賠償責任、保険適用外の問題が重なる。

もう一つの注意点として、物質単位の個別指定があります。一部の国では成長ホルモンやその関連物質、特定のペプチドが処方箋医薬品または規制物質として個別に指定されており、その場合は所持自体が規制対象になり得ます。したがって「ペプチド一般はグレーゾーン」という一括した理解は危険です。対象となる具体的な物質名で、居住国の法令を確認する必要があります。

アナボリックステロイドとの比較はここで有用です。多くの法域でアナボリックステロイドは規制物質として明示的に指定されており、所持を含めて刑事罰の対象となり得ます。研究用ペプチドの多くはその指定を受けていないため規制の構造が異なりますが、これは安全性や有効性が高いことの証明ではなく、単に規制カテゴリーが違うだけです。この違いについてはペプチドとステロイドの比較記事で整理しています。

EUとフランスではペプチドはどう規制されるのか?

EUの医薬品規制の基礎は指令2001/83/ECです。この指令は医薬品を二通りに定義しています。一つは提示による医薬品、すなわちヒトの疾病を治療または予防する性質を有するものとして提示される物質。もう一つが機能による医薬品で、指令第1条(2)(b)は「薬理学的、免疫学的または代謝的作用を及ぼすことにより生理機能を回復、修正もしくは変更する目的で、あるいは医学的診断を行う目的で、ヒトに使用または投与され得るあらゆる物質または物質の組合せ」と定義しています。

この「機能による医薬品」の定義が、EUにおけるペプチド規制の実質的な核心です。ラベルに「研究用」と書いても、疾病への言及を避けても、その物質が薬理学的作用によって生理機能を変更する目的でヒトに使用され得ると判断されれば、医薬品規制が及び得ます。医薬品と判断されれば、販売前に販売承認(EU中央審査または各国承認)が必要となり、承認のない製品の市販は違法です。欧州医薬品庁(EMA)が中央審査を担う領域では、承認を受けていないペプチドを治療目的で市販する余地はありません。

フランスでは、この枠組みが公衆衛生法典(Code de la santé publique)に取り込まれ、国立医薬品・医療製品安全庁(ANSM)が所管します。輸入については、ANSMが個人による医薬品輸入の条件を公表しています。個人が自ら携帯して持ち込む場合は輸入許可を必要としません。宅配便や郵便による輸入は、当該医薬品が欧州経済領域(EEA)加盟国で販売承認または登録を受けている場合、あるいは発送元の第三国で認可されており、その国で確立した医師の処方に基づく治療のためであることを示す処方箋の写しを税関に提示できる場合に、許可を要しないとされています。数量は、通常の使用条件で3か月を超えない治療期間、または処方に定められた治療期間に相当する範囲に限られます。麻薬に分類される医薬品や向精神薬を含む医薬品にはこれらの規定が適用されず、個人は携帯輸入によってのみ輸入できます。

実務的な含意は明快です。EU域内では、未承認ペプチドを「サプリメント」や「研究用試薬」として市販する行為は、機能による医薬品の定義に照らして医薬品の無承認販売と判断されるリスクを常に伴います。個人輸入についても、EEA外から承認のない注射用ペプチドを取り寄せる場合、上記の免除条件を満たさないため税関で差し止められる可能性が高くなります。

日本の薬機法と個人輸入のルールはどうなっているか?

日本では、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品は医薬品医療機器等法(薬機法)によって規制されています。国内で医薬品を製造販売するには承認と許可が必要であり、承認を受けていない医薬品について効能効果を広告することは禁止されています。BPC-157、TB-500、エピタロン、セマックスといったペプチドは、国内でヒト用医薬品としての承認を受けていません。

日本の制度で特に理解しておくべきなのが個人輸入の扱いです。厚生労働省は、一般の個人が医薬品等を輸入できるのは自分自身で使用する場合に限られると明示しており、個人輸入した製品を他人に売ったり譲ったりすることは認められていません。ここが最も明確な違反ラインです。「自分用に買った」という説明は、他者への販売や譲渡を正当化しません。

手続面では、原則として地方厚生局に輸入確認申請を行い、その輸入が販売・貸与・授与を目的としないことの確認を受けて輸入確認証(いわゆる薬監証明)を取得する必要があります。ただし、自己使用のための一定数量以下であれば、税関限りの確認で輸入できる場合があります。厚生労働省の輸入手続質疑応答集では、毒薬・劇薬および処方箋医薬品については用法用量から見て1か月分以内、その他の医薬品については2か月分以内が目安として示されています。

注射剤については扱いがより厳格です。自己注射が認められている注射器を用いる医薬品(インスリン製剤など)を注射器とともに輸入する場合には、用法用量から見て1か月分以内の医薬品と当該医薬品に用いる注射器について輸入確認証の取得が不要とされていますが、これは自己注射が制度上認められている製剤に関する例外です。国内で承認されていない注射用ペプチドの粉末は、この例外の前提を満たしません。したがって、研究用表示の注射用ペプチドを海外から取り寄せる行為は、手続上の確認を求められる可能性が高く、内容によっては通関できません。

さらに、個人輸入代行業者を介した場合の問題もあります。厚生労働省は、個人輸入代行業者が実際には無承認医薬品の輸入や広告を行うなど薬事法に違反する行為をしている場合があると注意喚起しており、無承認医薬品の個人輸入に対する監視指導を継続しています。国内での健康被害事例も公表されています。

サプリメントと化粧品のペプチドは別扱いなのか?

はい、まったく別の法体系が適用されます。ここを混同すると、「コラーゲンペプチドが普通に売られているのだから、BPC-157も同じはずだ」という誤った推論に陥ります。

まず食品・サプリメントとしてのペプチドです。コラーゲンペプチド、乳由来のラクトトリペプチド、大豆ペプチドなどは、通常の食品成分として長い使用実績があり、食品衛生に関する法令の枠組みで扱われます。ここでの法的な焦点は、物質の合法性ではなく表示と広告です。EUでは健康強調表示は当局が認可した範囲に限られ、日本でも食品に医薬品的な効能効果を表示すれば、その食品は未承認医薬品と判断され得ます。つまり、成分としては合法でも、「関節を治す」「疾患を改善する」といった表示をした瞬間に医薬品規制の側に移動します。

次に化粧品です。EUでは規則(EC) No 1223/2009が化粧品を規律します。同規則は化粧品を、皮膚、毛髪、爪、唇、外性器、歯および口腔粘膜などの身体の外部と接触させることを意図し、専らまたは主として洗浄、賦香、外観の変化、保護、良好な状態の維持、体臭の調整を目的とする物質または混合物と定義しています。附属書IIの禁止物質、附属書IIIの制限物質に適合し、安全性評価と製品情報ファイルを整備すれば市販できます。GHK-Cu(銅トリペプチド-1)、アセチルヘキサペプチド-8(アルジルリン)、パルミトイルペプチド類(マトリキシル)などは、この枠組みで外用化粧品成分として流通しています。

ただし決定的な線引きがあります。同じGHK-Cuでも、外用化粧品としての配合と、注射用の凍結乾燥粉末はまったく別の法的対象です。実際に米国では、GHK-Cu は注射剤形についてのみ調製用原薬の安全性懸念カテゴリーに置かれていました。外用の銅ペプチド美容液が合法に売られていることは、注射用GHK-Cu が合法であることを何ら意味しません。

また、化粧品であっても表示の制約は厳格です。化粧品が生理機能を回復・修正・変更することを目的とすると主張すれば、EUでは機能による医薬品の定義に近づき、日本では薬機法上の効能効果の範囲を超える広告として問題になります。「シワを改善する」といった表現が各国で細かく規制されているのは、この境界線上にあるためです。

スポーツ競技ではペプチドは禁止されているのか?

競技者にとっては、国の法規制とはまったく別の規則が適用されます。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表国際基準は、法律ではなく競技参加の条件として機能します。ある物質が居住国で合法に入手できることは、競技で使用してよいことを意味しません。2026年版禁止表国際基準は2026年1月1日に発効しています。

ペプチドに関係する主要な区分は2つです。第一がS2:ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質で、常時禁止(競技会外も含む)です。S2には、成長ホルモン(GH)とその類似体および断片(ロナペグソマトロピン、ソマパシタン、ソマトロゴン、AOD-9604、hGH 176-191 など)、成長ホルモン放出因子(GHRHとその類似体、成長ホルモン分泌促進物質(GHS)とその模倣物質、GH放出ペプチド(GHRP))、インスリン様成長因子1(IGF-1、メカセルミン)とその類似体、メカノ成長因子(MGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、そしてチミシン-β4およびその誘導体が含まれます。TB-500 はこの最後の項目に該当します。CJC-1295、セルモレリン、テサモレリン、イパモレリンといったGHRH類似体やGHRPも、この枠組みで常時禁止の対象です。

第二がS0:非承認物質です。これは禁止表のいずれの項目にも該当せず、かつ政府の保健当局によってヒトの治療用として現在承認されていない物質を対象とする包括条項です。前臨床段階、臨床開発中、開発中止、デザイナードラッグ、動物用にのみ承認された物質などが含まれます。BPC-157 はいずれの規制当局からもヒト用医薬品としての承認を受けていないため、この S0 に該当し、常時禁止とされています。

実務上の含意は次のとおりです。第一に、「承認されていないから禁止表に載っていない」という推論は成り立ちません。S0 はまさにその隙間を埋めるための条項です。第二に、外用化粧品に配合された成長因子やペプチドについても、競技者は成分表示を確認する必要があります。第三に、血小板由来製剤である多血小板血漿(PRP)や多血小板フィブリン(PRF)は禁止されていません。第四に、治療上の必要がある場合には治療使用特例(TUE)の手続があり、事後の説明では間に合わないため事前の確認が不可欠です。

検査対象となる競技者は、居住国の法規制、所属競技団体の規則、国内アンチ・ドーピング機関の規則という3層を同時に確認する必要があります。日本語版の禁止表国際基準は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が公表しています。

法的リスクを下げるために何を確認すべきか?

最後に、実務的な確認事項を整理します。これは法的助言ではなく、情報を自分で確認するための手順です。

1. 物質名で、製品区分ごとに確認する。「ペプチド」でまとめて調べても答えは出ません。対象となる具体的な物質名(例:セマグルチド、BPC-157、GHK-Cu)と、対象となる製品区分(注射剤、経口、外用、食品)の組合せで、居住国の当局の情報を確認してください。

2. 一次情報源を見る。法的な部分については、FDA、EMA、ANSM、厚生労働省、WADA といった当局の公表文書が唯一の確実な情報源です。販売者のサイト、フォーラム、まとめ記事は、規制の変更に追随できていないことが多く、意図的に楽観的な解釈を示している場合もあります。

3. 行為の種類を意識する。所持、輸入、使用、販売、広告のどれをしようとしているのかで、リスクの大きさが桁違いに変わります。特に、他者への販売・譲渡と、効能効果の広告は、ほぼすべての法域で明確な違反です。

4. 承認医薬品が存在する領域では、承認経路を優先する。体重管理やGH軸に関する目的であれば、承認された処方医薬品が存在する場合があります。医師の診察と処方という経路は、法的な確実性に加えて、適応、用量、モニタリング、副作用対応、被害救済という点でも比較にならない保護を提供します。

5. 競技者は禁止表を先に確認する。法的に問題がなくても、S2 または S0 に該当すれば競技資格に直結します。

6. 変更を前提にする。2026年の米国での動きが示すように、この分野の規制は年単位ではなく月単位で変わります。6か月前の情報は現在の状況を反映していない可能性があります。

医学的免責事項:本記事は教育目的の情報提供であり、医学的助言ではありません。本文で言及した未承認ペプチドは、いずれの規制当局からもヒトへの治療使用について承認されていません。健康上の判断については、必ず医療専門家にご相談ください。

法的免責事項:本記事は法的助言ではなく、弁護士と依頼者の関係を形成するものでもありません。記載内容は2026年9月30日時点で公開されていた公的情報に基づく一般的な整理であり、その後の法令改正、当局の決定、司法判断を反映していません。法令は国、州、時期によって異なります。個別の状況については、該当する法域で資格を有する法律専門家にご確認ください。

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よくある質問

ペプチドを購入することは違法ですか?
対象となる物質と製品区分、そして居住国によります。食品成分や化粧品成分としてのペプチドは、適切に表示されていれば通常合法に販売されています。未承認のヒト用医薬品に該当するペプチドについては、法令の主たる規制対象は製造、輸入、販売、広告といった供給側の行為であり、規制物質に指定されていない場合、個人が自己使用目的で少量所持することを独立の犯罪として定めていない法域が多くあります。ただし輸入段階では数量制限や当局の確認が必要になることが一般的で、他者への販売や譲渡は日米欧のいずれでも明確な違反です。具体的な物質名で居住国の当局の情報を確認し、必要に応じて法律専門家に相談してください。
「研究用」と書かれたペプチドを自分に使ってもよいのですか?
「研究用にのみ使用、ヒトへの使用は不可」という表示は、販売者が自らの販売行為を医薬品規制の枠外に置こうとする条件表示であり、購入者に治療目的の使用を許可するものではありません。当局が研究目的での自己投与を承認したという意味でもありません。加えて、研究用試薬には無菌性、エンドトキシン、不純物プロファイル、含量均一性について医薬品と同等の規制上の保証がありません。FDAが調製用原薬としてのペプチドについて免疫原性と不純物を主要な懸念として挙げてきたのは、この点と直接関係しています。
BPC-157 は2026年時点で米国で合法になったのですか?
承認医薬品になったわけではありません。報道によれば2026年4月に指名の取り下げを理由に BPC-157 を含む12のペプチドが503A暫定方針のカテゴリー2から外され、その後FDAの薬剤調製助言委員会(PCAC)が2026年7月23日と24日の会議で BPC-157 など複数のペプチドの503A原薬リスト収載を審議し、賛否の近い票差で大半について収載を勧告しました。ただし委員会の勧告はFDAの最終決定ではなく、原薬リストへの収載は規則制定手続を経て確定します。2026年9月30日時点で最終収載の公表は確認できず、BPC-157 は依然としてヒト用医薬品として承認されていません。
日本では未承認ペプチドを個人輸入できますか?
厚生労働省は、一般の個人が医薬品等を輸入できるのは自分自身で使用する場合に限られるとしており、個人輸入した製品を他人に売ったり譲ったりすることは認められていません。手続としては、原則として地方厚生局に輸入確認申請を行い、輸入確認証(薬監証明)を取得します。自己使用のための一定数量以下であれば税関限りの確認で輸入できる場合があり、輸入手続質疑応答集では毒薬・劇薬および処方箋医薬品は用法用量から見て1か月分以内、その他の医薬品は2か月分以内が目安とされています。注射剤は扱いがより厳格で、自己注射が制度上認められている製剤(インスリン製剤など)に関する例外が定められているのみです。
EUでは「サプリメント」として売られていれば問題ないのですか?
そうとは限りません。指令2001/83/ECの「機能による医薬品」の定義は、薬理学的、免疫学的または代謝的作用を及ぼすことにより生理機能を回復、修正もしくは変更する目的でヒトに使用され得る物質を医薬品としています。この定義は製品の呼び方ではなく実質を見るため、サプリメントや研究用試薬と称していても医薬品と判断され得ます。医薬品と判断されれば、販売承認のない市販は違法となります。
化粧品に配合された GHK-Cu と注射用 GHK-Cu は同じ扱いですか?
いいえ、法的にはまったく別の対象です。EUでは外用の化粧品は規則(EC) No 1223/2009に従い、附属書IIおよびIIIの要件を満たし安全性評価を備えていれば市販できます。銅トリペプチド-1 はこの枠組みで外用成分として流通しています。一方、注射用の GHK-Cu は化粧品の定義に当てはまらず、注射によるヒトへの投与を意図した製品として医薬品規制の対象になります。米国では GHK-Cu は注射剤形についてのみ調製用原薬の安全性懸念カテゴリーに置かれていました。
BPC-157 や TB-500 はドーピング検査で問題になりますか?
はい。WADAの禁止表国際基準では、TB-500 は S2(ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質)に含まれるチミシン-β4およびその誘導体に該当し、常時禁止です。BPC-157 はいずれの保健当局からもヒト用として承認されていないため S0(非承認物質)に該当し、こちらも常時禁止です。2026年版禁止表は2026年1月1日発効です。居住国で合法に入手できるかどうかは、競技での使用可否とは無関係です。
GLP-1 系ペプチドの調製品(コンパウンド品)はまだ購入できますか?
米国の枠組みは大きく変わりました。FDAはチルゼパチドおよびセマグルチドの注射剤の供給不足解消を宣言し、調製業者に対する経過措置期間を示した上で、市販製品の実質的なコピーにあたる調製に対して措置を取り得る立場を明確にしました。さらにFDAは、セマグルチド、チルゼパチド、リラグルチドを503B原薬リストから除外する提案を行い、外部委託施設がこれらを原薬から調製する臨床上の必要性は認められないとしています。承認製剤以外のGLP-1製品については、品質と法的位置づけの両面で慎重な確認が必要です。

出典

  1. U.S. Food and Drug Administration (2026). Bulk Drug Substances Used in Compounding Under Section 503A of the FD&C Act. FDA, Human Drug Compounding.
  2. U.S. Food and Drug Administration (2026). Certain Bulk Drug Substances for Use in Compounding that May Present Significant Safety Risks. FDA, Human Drug Compounding.
  3. U.S. Food and Drug Administration (2026). July 23-24, 2026 Meeting of the Pharmacy Compounding Advisory Committee (BPC-157, KPV, TB-500, MOTS-c, Emideltide, Epitalon, Semax). FDA Advisory Committee Meeting Materials.
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  11. 厚生労働省 医薬局 監視指導・麻薬対策課 (2025). 医薬品等輸入手続質疑応答集(Q&A)について. 厚生労働省 事務連絡.
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